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quod tacui et tacendum putavi.

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手折る指先(ロシウとシモン)

グレンラガン
三部直前くらいで、ロシウとシモン。






「つかれたー」
「もう少しです、頑張って」
「うう聞き飽きた。ニアに会いたい」
「僕こそ聞き飽きました」
「…お互い飽き飽きだということで、そろそろ、ね。休憩とか」
「もう少しです、頑張って」
「…だからそれは聞き飽きたってば~」
やりとりは日々同じようなもの。シモンは書類の上に突っ伏し、ロシウは回収しようとした手を引っ込めた。
「汚したり皺寄せたりするといけないので起きてください。ほら、汚したら新しく書きなおしですよその書類」
「ううう」
シモンはいやいや起き上がり、ロシウはその下から書類を回収する。
シモンはぷいと横を向いた。と思うとぐるりと椅子を反転させ、窓のほうを向いた。
「なにしてるんです、」
「ちょっとだけ。深呼吸だけ」
ほんとうにあともう少しなのだ。ロシウは「あとこれだけですよ」といったが、シモンは「うん、だからラストスパートのための深呼吸」と返した。
ロシウは嘆息して、シモンがうーんと伸びをするのを見守った。
足を投げ出して、腕を伸ばして、シモンは伸びをする。そして満足げに腕をおろし、腹のあたりで指を組み合わせた。
その目が穏やかに街を眺めているのを見てとり、ロシウは声をかけるのを待った。
シモンは退屈な王様のように、こどもの作った工作をいとおしむように、何かを見つけようとするように、じっと広がるパノラマを見ていた。
彼が作ったものだ。そして、今、その肩にかかっているものを、最もわかりやすく具現したものだ。
自分たちはそれを守らなければならないと、ロシウは思う。維持することは、作ることよりも難しい。
ゆるやかに街を見ているシモンの目に、かつての激情や勢いはないが、それが日常というものだと、ロシウは少しだけ苦いものを飲み下した。
「あっ」
シモンが椅子の背につけていた頭を浮かせて、身を乗り出した。そして思わずといったように手を伸ばした。
鳥が、窓の外、硝子ぎりぎりのあたりを飛んで、下から上へ、飛び去っていった。
ロシウはぎくっとした。

シモンが、空に手を伸ばしていた。青空に。彼らの誰もが一度は息詰まるほどの感動をおぼえ、焦がれ、見上げた、地上の空を。
それは何かを追い求めるようで、無邪気で一途なこどもの姿のようだった。
不屈の意志でラガンを駆る、かつての姿がそこに重なった。

ロシウは手を伸ばして、その一直線に空に伸ばされる手をとった。
手はくしゃりとまるまって、ロシウの手のなかにおさまった。
ロシウは安堵と罪悪感とをおぼえる。
シモンはきょとんとしてロシウを見上げた。
「…なに?」
「気を逸らすのもほどほどにしてください。あれが気になって仕事を中断されては、困ります」
「しないよ、そんなこと」
シモンは口を尖らせる。ロシウは平常を装って、ぱっと彼の手を離した。
シモンはまた腹のあたりで指を組み合わせて、ぐるりと椅子を回転させた。その手のあたりにはコアドリルがわずかに触れている。

彼が空に伸ばす手を手折ったのは僕だ。
僕はいつでも、あなたの傍でその指先を手折り続ける。
ここにいてください。
あなたが焦がれるものがどこにあるか、なんて。本当は知ってるから。
あなたの兄貴分と、姉貴分と、彼らはもう遠くに行ってしまった。
彼を連れだそうとしないでください。
彼をここに置いておいてください。
彼が今持つべきはペンなのです。
僕は一途な、こどものような彼のこころを手折り続ける。ここで。
彼をここにいさせてください。

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