ちくちくと針が布の海を泳ぐ。流線型の銀の魚が腹を見せてとびあがり、海原にもぐる。そんなことを想起した。
「さすがに伊助は手馴れてるなぁ」
伊助は照れたように笑った。
「そうかな。そうでもないよ」
家業のせいか伊助は繕い物が得意だ。
「庄左ヱ門は自分でやるけど、針に糸が通せないから団蔵はよく来るよ。糸が通せても団蔵じゃ指が穴だらけになるし」
「ぞっとしないなぁ」
うん、と手元に目を落としながら伊助が笑う。
「きり丸としんべヱは乱太郎がいるし。乱太郎は目が悪いけど器用だから。それでもやっぱり、手はきずだらけになるみたいだけどね」
それらしい、と笑った。
できた、と伊助が糸を切る。着物を表がえして、広げてみる。
「うまいもんだなぁ」
「つぎを当てて穴はふさいだよ。ついでに膝のところに補強の布も当てといたから、ちょっとは丈夫になったと思う」
「至れりつくせりだな。ありがとう」
「どういたしまして」
忍装束を押しいただくと、伊助はちょっと目を細めて笑った。
「物持ちよくがぼくの信条だよ。長く使ってね」
「うん」
「また破れたらおいでよ。破れたままにしておかないこと」
「わかってるって」
「長く、長く使ってね」
伊助は伏し目がちに優しい声でいった。
「うん、伊助」
一緒に成長していこう。これから五年ずっと。
「でも成長期だからすぐに着れなくなるよ」
「うん。でもどうせ、また破るだろ。そうしたら」
「そしたら、またぼくが繕うよ」
これからもよろしく。
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虎若か金吾のイメージだけど、相手は誰でもいいような。
は組はおちこぼれと名高いけども団結力と互いを知ってるんだっていう。
伊助はほころびたところを繕うのがうまいような、細やかな印象。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。