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洛東

quod tacui et tacendum putavi.

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寒鴉ひとこえ是と哭けり

ヘタリア。ロシアとプロイセン。

人名表記です。ロシア→イヴァン。プロイセン→ギルベルト。

タイトルが思いつかなくてうpできなかったもの③






壁の内側にやってきたイヴァンは首をかしげて元気?と問うた。
元気に見えるかこれが、と毒づいてから、俺様はいつだって元気だぴんぴんしてる、だって俺様だからなとギルベルトはうそぶいた。
相変わらずだねとイヴァンはちょっと笑った。
季節は冬を迎えていた。

「なにも冬に来るこたねぇだろ。夏に来い、夏に」
「どうして?」
「ただでさえお前んとこ寒いんだから、わざわざひとん家に来るときくらい冬以外を選べよ」
「ふふ、優しいんだね。大丈夫、ここは僕のところより寒くないよ。だから来たんだ」
「…でもやっぱ、冬以外に来い」
「ありがとう。そのうちね」

黒々とした壁を見やりながら、イヴァンが口を開いた。
「閉塞した場所にはだからこその豊穣があるとは思わない?」
「わからねぇな。あるのかもしれねぇ。だが、ただの詭弁かもしれねぇ」
「君はどう思う?」
「今の俺の境遇と照らし合わせろってんなら、たとえどんなに富んでいても、俺にゃあ閉塞はまっぴらだ。息が詰まる」
第一、全然富んでねぇ。口を尖らせて付け足したが、イヴァンは頓着しなかった。
「そう。…僕は荒涼とただ広がるだけの大地を見てきたせいかな。どうしてもね、囲い込もうとしてしまう。掌の中に閉じ込めようとしてしまうんだよね。広い場所は寒々しい。狭いところなら、…其処にひとも物も集まるしかないじゃない。そうしたら少しは暖かいかなぁとか、そんなことを考えちゃうんだ」
暖炉の団欒を忘れられないのだ、とイヴァンはいった。
「掌に閉じ込めたら死んじまうもんもあってもか?」
「そう、それが僕の手に入らないものだ。君もそう。僕はいつだって、手に入らないものがほしいんだ」
向日葵は手折ってしまうし、手の中に温度は残らない。夏は手に入らない。
だから君の家の夏には来れないよ、とごちた。嘆いてはいなかった。諦めのような、諦めきれないものを思うような、そんな声だった。
だがそれに拗ねたこどものような調子を見てとり、ギルベルトはやれやれと肩を竦めた。こいつは諦めきってはいない。いないからこそ、自分はこのようなことになっていて、狭い空を眺めてる。でもこいつに諦めろともいえない。冬に閉じ込められていろとはいえないではないか。
「馬鹿だな、お前。握りしめるだけが大事にする方法ってわけでもねぇだろう」
「他に遣り方を知らないんだよ」
「甘ったれるんじゃねぇ…といいてぇところだが、誰も教えちゃくれなかったんだな。俺様が教えてやろうか?」
「君が?僕に?できると思ってるの?」
イヴァンの目に寒々とした色がよぎる。ギルベルトは鼻を鳴らした。
「できるかどうかって訊かれたら、やってみなけりゃわかんねぇって返すだけだな」
「そう…君らしいね」
それっきり会話は途絶えた。イヴァンが薄曇りの空を見上げながら黙って立っていたので、ギルベルトも黙っていた。
今にも雪が降り出しそうな暗い空に鳥が飛んでいた。この街の上にまで飛んで来ることがあるだろうかとギルベルトは考え、雪が降り出すよりも早いとよい、と思った。
こぼすようにぽつんとイヴァンはいった。
「君は、野の鳥だね。籠に入れたら死んでしまう。君には、自由が似合うよ」
ギルベルトは笑った。
「そいつは壁の向こうの言葉だな」
イヴァンはちらりと笑い返し、そうだねと答えた。
気が付くと、イヴァンも遠い鳥の影を見つめていた。彼の横顔を見て、春を待ち望んでいるようだと思った。だがイヴァンはきっと手の届くところに来た鳥を撃ち落とすだろう。ほんとうにそこにいるのか知りたくて。もう飛ばない翼に触れたくて。逃げていく温度を掴まえたくて。
だから鳥よ来るな。手の届かない少しのところを飛びまわっていろ。
ああそれが自由というものだと、ふとギルベルトは悟り、壁の向こうの空を旋回する鳥が近づいてくるのを、恐れるような願うような心地で見つめていた。




*****
壁当時のギルとイヴァンさま。
ギルはイヴァンさまのお兄ちゃんもやってそう。

自由って言葉にそれは壁の向こうのものだっていうギルが書きたかったがためとかそんな。

鳥がギルの、雪がイヴァンさまの、それぞれの隠喩であり、同時に壁の向こうで彼を助けようとやってこようとするルートの隠喩でもある。ギルは鳥なので飛んでゆきたいが、彼の自由の象徴でもある弟にイヴァンさまの手が伸びるなら、ここで黙って籠の鳥でいるのもやぶさかでない、と思ってる。

イヴァンさまは籠に入れて手元にとどめて置かなくては安心できないが、それによって鳥を緩慢に殺していることに気付いてもいる。でも籠の入り口を開いて飛んでいったら鳥は二度と戻ってこないと知っている。イヴァンさまは鳥が好きなので、鳥にいってほしくない。でも鳥が緩慢に死にゆくことをけっして喜んでいるわけでもない。ほんとうに死んでしまったら手の中に閉じ込めておいても何の問題もないけれど、でも「鳥が飛び去る」のはそのときだと知ってもいる。鳥が自由になるのはその瞬間であるとも知っている。
鳥を自由にさせたくないわけではなくて、イヴァンさまは鳥が好きで、だから鳥に傍にいてほしかったり自分を好きになってほしかったりするだけ。

説明してしまった!しかも長い。

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〈落忍〉
生い先こもれる窓のうちなるほど(滝夜叉丸と綾部)
かじつ(五年ろ組)
営門を仰ぐ(小松田)
艶書(会計委員会)
俺の指を噛んで(六年は組)
裏打(伊助とは組の誰か)
全てを捧げる朝(きり丸)
今夜の嵐は荒れるだろう(久々知と伊助)
空蝉(金吾と喜三太)
知音(双忍)
寄する波(会計委員会)
故にあなたを捨てられない(図書委員会)
内密(双忍)

〈グレンラガン〉
手折る指先(ロシウとシモン)
順列のともし火を絶やさぬよう(ロシウとヨーコ)

〈ソウルイーター〉
「ひどく憎んでいるかぎり、まだいくらか愛しているのである。」(シュタイン)
「人間よ。汝、微笑と涙との間の振子よ」(ソウル)
「どんな忠告を与えるにしろ、長々と喋るな。」(椿とブラックスター)
秘密という寓話(マカとソウル)

〈SilverSoul〉
葡萄色した東雲に(銀時と土方ととある女)
フォゲット・ミー・ノット(土方と銀時)
Good bye.(神楽と新八)

〈APH〉
夕焼けに薔薇と桜(イギリスと日本)
ドリンクはお好みで(フランスとイギリスとアメリカ)
約束の約束(アメリカと日本)
落葉の手(日本とイタリアと)
寒鴉ひとこえ是と哭けり(プロイセンとロシア)
わたしの緑、わたしのケロイド(イギリスとアメリカ)
藍より出でて(イギリスと日本)

〈fkmt〉 
2番までは知らない(カイジとアカギ)
銀河と君が近かった時代(ひろと赤木さん)
高さのちがう肩に降る(しげるとカイジ)
きしんだ髪と遠くの愛(カイジ)
先生が優秀でしたから(ひろと赤木さん、市川さんとアカギ)
失う前に捨てなさい(カイジとアカギ)
手遅れになったら会いましょう(アカギとカイジ)
ていたらくの作り笑い(しげると涯と零とカイジ)
今はまだ昨日のこと(赤木さん)

〈neuro〉 
アーケオプテリクスの緑(弥子とネウロ)
a solitary example.(弥子とネウロ)
ラワーレ(弥子とネウロ)
いつも五分前(篚口と弥子)
The sleeping Cat.(ネウロと弥子)
n and y(弥子とネウロ)

〈其の他〉
春風の地平(はぐと花本先生)
無何有郷(ベルとキティ)
蓮(曽良と芭蕉)
君は呟く。(中禅寺と榎木津)
ダーリン・フロム・ヘル(笠野と達海)
くたばってしまえ(静雄と臨也)
こどもは隠れるのがうまい(ジャーファルとアラジン)

〈一次創作:掌編〉
薄荷はレモン
香典はセロリ分引いといたから次は蟹で頼む
星に願いを
みかん捨て場には近いし隣室がちょうどいい
語感で会話してるとこうなるっていう一例
十年一日(俺の十年、奴の一日)
コーヒー置いてけ
船出の刻
透明人間は派手で儚いレインボーの夢を見る
モ・クシュラ
蝶々が尋ねる花はこの野にある
秋は剥落

管理人:りつか

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

quod tacui et tacendum putavi.…「わたしが語らなかったこと、そしてわたしが黙っているべきだと思ったこと」。いわぬが花を口にする無粋、を承知で語らずにはおられない気持ちで。

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

 





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