「
即興小説トレーニング」さんでチャレンジしたもの。
お題:オレだよオレ、音楽
リミット:15分
文字数:974字
ちょっと修正あり。
ガッデム!!と叫びながら廊下に出た。古いか。古いよな。
叫んで出た手前戻るにはきっかけが要るんだけど、部屋にいた誰もそれを提供してくれそうもなかったので自分で用意するしかない。…とりあえず、煮詰まってたからジュース買ってきたよ!とかどうだろう。煮詰まってたのは俺だっての。
「自販機でコーラを買ってスタジオの前の公園で飲んでるなう」
顔文字まで使ってツイッターに呟いておいた。よし、これで誰か来てくれるだろ。頼む来てくれ。公園は寒い。
っていうか何でコーラ買っちまったんだ。コーヒーにしときゃよかった。
コーラにしたのは頭を炭酸ですっきりさせたかったからだ。
思いつかないんだ、歌詞が。そんなのいつものことだけど。
メジャーじゃない、インディーズの細々したバンド。でもそういう路線でやってきてるから、別にひがみやねたみやそねみはあんまりない。っていうかしょうがない。メジャーな方向性のものはあんまり向いてないし、向いてない自分を嫌いでもないし、まぁそういう感じ。
どんなにマイナーなグループでもいい、歌ってられたら。歌いながら生きていければ。
でもどんなに貧弱でも生産者で表現者で、だから産みの苦しみはある。
「思いつかねんだよなぁ、詞が」
ことばが。
言葉がない。難しい。喉元まで込み上げるものはあるのに。それを言い表す為の言葉が足りない。
「歌詞は後からでもいーんだけど?」
振り返った。ああ、我らがギタリスト。うざったい前髪をした見慣れたそのツラ。
しかも手にコーヒーを持ってやがる。ああ、俺もコーヒーにすりゃよかった。なんで冷たいコーラ。寒いのにコーラ。
「言葉は後からついてくるって思うか?」
「そういうこともある」
「でも言葉が足りねェんだよ。こう、ここまで来てんのに。どういったらいいかな」
「大丈夫じゃないか。言葉が足りないんだろ?気持ちが足りないんじゃないんだから。言葉は他から持って来れるけど、気持ちはそうじゃないから」
「…自分の言葉を探してんだけど。でも、そうさな。気持ちはある、か」
そうか言葉か、とわかったのかわからないのか、ギタリストは頷いた。
「なら待てるよ。楽しみにしてんぜ、我らがボーカルさんよ」
そうしてやつは俺の肩を叩いて去って行った。あったかいコーヒーを持って。
気持ちは、ある。そうだった。
叩かれた肩に手をやる。なんだか声が聞こえた気がした。
俺だよ俺、音楽。
お前の音楽。
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