「
即興小説トレーニング」さんでチャレンジしたもの。
お題:「悔しい僕」
リミット:15分
文字数:674文字
誤字脱字修正あり。
もし明日、海に行けたら。と教室の一番窓際、列の一番後ろ、僕の背後でミヤがそう呟いた。僕はプリントの端に落書きをしながらその呟きを聞いた。
ミヤの言葉は独り言だ。ミヤは時々、ツイッターをやりながら気付かずそれを口に出す。僕はそれを聞き流すのに慣れた。慣れる程度にはあいうえお順のこの席で長く学校生活を送って来ている。灰色の受験生の僕たちには、ここしばらく席替えという些細なイベントすら訪れていない。
「カネコ」
ミヤが僕を呼ぶ。僕はプリントの端に落書きをしながら問題に熱中しているふりをする。
「カネコってば」
つんつんと背中に何か刺さる。さてはシャーペンだなこれは。
「なんだよミヤ」
「ジュース買いに行かない?飽きたわ」
「…教室の外に出ると怒られるよ」
「受験生の息抜きくらい見逃してくれるよ」
自習時間でもミヤは気楽なものだ。ミヤの模試の結果がよいのか、悪いのか。僕は知らない。
「“もし明日海に行けたら”」
「ん?」
「行けたら、何なのさ」
「何だと思う」
「わからないから訊いてるんだけど」
「何でもいいんだよ、別に」
「なに?行けたら受かる気がするー、とか」
「そんなんじゃなくてもいいんだけど。そんなんでもいいけど」
「どっちだよ」
「海じゃなくてもいいんだけど」
とん、とん、と軽やかに緑色のリノウムの床を跳ねながらミヤは行く。真冬の日本海の色ってこんなんかな。
行けたら、とミヤはいった。
「行けたら、いいな。といおうとしてた」
ミヤはいつもシンプルだ。
明日、海に行けたら。
ミヤと行けたら。いいな、と僕は思った。
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呟くのは癖じゃなくて君に訊いてほしいから。君に聴いてほしいから。
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