豪快にして勇猛。墨痕鮮やかにして、余白なし。
まるで本人のように猛々しい、と思った。
田村は一声唸った。
「団蔵、非常におもしろい字だが、読めないのが問題だ」
団蔵は眉を八の字にした。
委員長の潮江は休憩を申し渡して、左吉と一緒に茶を淹れにいった。
鬼のいぬまになんとやら、団蔵の練習してきた習字の半紙を見た感想が先程の言葉というわけだ。
居眠りをしていたはずの神崎がのっそりやってきて、半紙を取り上げると口をあけて笑った。
「お前の字は読めないが、伝わるものはあるなぁ。変だ」
見慣れている神崎や、横から添削や修正をしてやる左吉、字の練習を見てやる田村や潮江と、委員会では団蔵の字はおなじみのものだ。読みにくいし間違いも多いが、まったくわからないわけでもない。
「まるで暗号だ。解読は本人も不能とは、情けない」
忍びたるもの己でつくった暗号の解読法を忘れるとは言語道断、と潮江がいたなら叱るだろう。
「暗号じゃありませんよう」
団蔵が口をとがらせる。
ふむと半紙をつまんで、神崎は朗らかにいった。
「悪くないじゃないか、俺たちにしか読めないことばで書かれた書類だなんて、まるで密書か艶書だ」
わるくないじゃないか。神崎につられて、団蔵も相好を崩した。
「潮江先輩がいたら、密書と付け文を同列に並べるなって怒られますよね」
「明朗会計がモットーなのに書類が解読不能だなんて笑えるか、ともいわれるかもな」
でも密書も艶書も中身を本人以外に知らせたくないのは同じですよねぇと団蔵と神崎は笑い合う。
「お前ら反省の色がないぞ」
田村が嘆息する。
居眠りを注意されてばかりの神崎はからからと笑って自分の席に戻っていった。団蔵の前の半紙には、神崎の指についていた墨が掠れて残された。不可解な染みにしか見えないが、だからこそたしかに彼らにしか意味のとれない暗号で、微笑みのような優しい囁きだった。
----------------------------------------
田村の添削のあとも、左吉の嘆息も潮江のお叱りも神崎の汚した墨のあとも、
どれも団蔵にとっては「味のある字だ」「練習するなら付き合うぞ」「へたくそ、だからこれからうまくなればいい」ていう親愛なんだろうなって。
激しく艶書の意味を間違ってる気が。
そして神崎と団蔵のアニメの回を引きずりすぎ。だいすき、あの話。
左吉と潮江いれられなかったのが残念。いつかリベンジしたい。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。