「即興小説トレーニング」さんというところで書いたものです。
これが最初にチャレンジしたものですが、総じて会話でなんとか話を転がしてこうとしてるのがまるわかりでつらい。
お題:裏切りの春雨
必須要素:ガム
リミット;15分
文字数:1069字
鍋はしないと決めている。何故か?学生時代の苦い───いや実際の味としては甘い?───思い出からだ。思い出というとなんだか甘酸っぱい響きだが、別に素敵なものじゃない。
鍋をしようということになった。金もない貧乏な学生が狭いアパートの一室に何人も集まれば、自然とそういう話になる。…と決めてかかったものでもないが、なんせウチにはこたつがあったから。
そう、こたつ目当てに集まって来た有象無象どもが、じゃあ鍋をというのは必然の流れなのだ。
「ああ、鍋だ。鍋をしよう」
「人の家でおまえら勝手に」
「鍋は素晴らしいなぁ、何にする」
「だから」
「キムチだろう」
「ちゃんこ!」
「春菊さえ入ってれば何でも」
「渋いな」
「うまいぞ春菊」
「水炊きがいいなぁ、シメは雑炊で」
「シメはうどんだろ常考」
出身地がばらばらなので鍋の中身からシメからまったく決まらず、よし各自好きなものを持ち寄ろうじゃないかという話になり…闇鍋になったというわけだった。
「なんでこうなった?」
「誰もリーダーシップをとれないからだな」
「なんでこうなったんだ?」
「はい電気消すぞー」
「ああおまえら…食えるもんを入れてくれよ…」
「もう酒も飲める良識ある大人だからそのへんは心配ない」
数分後。
「なんだこれ伸びる」
「餅じゃね?それよりなんか、噛みきれないんだが…」
「あのー、マカロニ入れた?もしかして」
「甘い…」
「生臭い…」
「もういい、電気つけようぜ」
明るい電灯の下で見たものは、おおむねは食物なのだが、悪のりが過ぎるやつが必ず一人はいるもので…でかい魚の頭!こんなのどっから調達してきたんだか!
「うえっ肉これ生煮えだ」
「甘い!!」
「マカロニ?あれ違うこれ何?」
ちなみに甘いと叫んだモノはガムだった。誰がこんなもん入れたやつ。
「おおいしょっぱなからカレー粉入れただろ!ありえねぇ!」
「なぁこの苦いのは何なんだよ!」
「あ、セロリだ」
「セロリは入れないって約束したろ最初に!食えないんだよそのすかすかしたの!」
「あれセロリ苦手だっけ。いいじゃんお前の好きな春雨入れたんだから」
「俺が好きなのはマロニー!」
「いいじゃん、変わんないじゃん」
「裏切り者おおお」
阿鼻叫喚の有様だが、それもまたいい思い出だろう。と時間が経った今なら思える。いや嘘だ。電気を消した隙にキムチまで投入しやがったことは許せない。カレーにキムチって。
鍋はしないと決めている。あのメンバーでは二度と。二度と出来ない、の間違いかもしれないが。
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(そっちに行ったら今度は蟹鍋で一杯やろうや)
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