ぎんたま。土方と銀さん。
相変わらずシチュエーション不問。カップリングぽいといえばぽいかもしれない。
やっぱり相変わらず銀土とも土銀ともいいがたいんだけれど!
ざわざわと、紫苑の色の花が足元でざわめいていた。先を歩く銀時の羽織もゆるく風になびき、髪と相まってまぼろしのような風情を醸していた。
土方は足に絡む草に閉口し、銀時に声をかける。おい。
銀時は少し先で振り返る。なんだよ。待ってくれだなんてことを云うつもりはない。足並みを合わせるつもりもない二人組は、あわせて舌打ちし口の端をあげる。
土方が振り返らないことを銀時は好んでいたが、反対に土方は銀時が振り返らないことをあまり好ましく思っていなかった。
ひゅるりと、風が吹く。荒涼とした地上に低い草がどこまでも続き、潮騒を予感させる音と共に土方も銀時も揺らす。綺麗にたなびく互いの衣装。白い旗。黒いマント。
紫の野原を銀時は見渡す。すげぇなあ。どっこまでも続いてるもんだ。
それだけ俺らの忘れてることは多いのかね。見渡す限りの野原みたいに、どこまでも続く悩みなのかね。だってけして捉えられることがないから。そんな狭量なものじゃないから。
だからこの野原みたいに俺らの忘却はどこまでも続くんだなぁ、と銀時は云った。土方に対するような調子ではなく、もっとどこか素直な声音で。
「おい」
銀時はすいすいと歩く。土方はすぐに花に足をとらわれる。絡んだ草をときほぐして、また前に目を向けると無理につめた距離もすぐに元の木阿弥。ひらいてしまっている。銀時は土方が顔をあげるまで待っていることもあるし、ふらふらと歩を進めていることもある。気紛れだ。しかし殊更に戻って彼の手を引くようなことはない。
また絡む草に足をひかれた。足を引き抜いて顔をあげる。銀時はこちらを見ていた。
「これは勿忘草なんだぜ。知ってたか」
知るか、と土方は吐き捨てた。だよなぁと銀時はへらりと笑う。安堵と少しの寂寥があった。ありがちなそんなものは、土方が勝手にあると思いこんだだけのものかもしれない。しかし感じ取ったからには錯覚だろうと真実だった。
「なにを忘れてほしくねぇんだ」
一体何がお前にそう囁きかけてるんだ。土方の問いに、銀時は笑んだ横顔のみで応える。答えるつもりはない。そんな返答。
もしお前自身が忘れてほしくないというなら、俺はけして忘れない。忘れられるものかお前のような腹の立つやつ。そんな言葉を紡ぐことも躊躇われて、土方も結局無言を通した。言葉にする前に諦めるので行き違いは不毛であるのだと、どちらも理解しながら口にしないのだ。わかりすぎているから口にしない。しかし相手に確認もしないことで、矢張り暗黙の了解はたんなる不毛にも化すことになるのだった。
土方と銀時はそりも馬も合わないくせにひどく似通っているところがあって、内面も外面も異なるくせに、そして思考形態も変遷もまったくといってよいほどに異なるくせに、結論のみで共有するものがあるのだった。
銀時はすいすいと野原を歩く。花に足をとられているような素振りはないし、まして無理矢理に草を引きちぎっている素振りもない。どうしてか、と問うこともできない。土方は、だから銀時は酷い男であるのだと思った。矢張り、酷い男なのだ。
わすれないでとささやかな声で密やかにとなえる足元のものを一顧だにせず歩く。土方はとらわれていないからこそ不意に足をとられて立ち止まるのだが、銀時はどこまでもとらわれているものがあるが故に足元になどとらわれずに歩くのかもしれない。
彼の背に絡みつく紫の蔦を見た気がした。それは心臓までもを絡めとり、もはや血管と一体になって彼と切り離すことはできない。
銀時は忘れないでと叫ぶものと共に歩いているのだ。
土方は何度か口を開きかけては呑み込んで、そしてとうとう迷いを振りきり声にした。
「おい」
ふらりふらりと足をとられる野原で自在に歩いているような素振りの銀時が、ようやく土方を振り返る。数メートルの距離には風が渡り、その風に花が揺れる。さわさわと囁く。わたしをわすれないで。
銀時は振り返り、くしゃりと笑った。置いていくこともできずにいた土方の銀時を呼ぶ声こそを、忘却の叫び声であると、そう思ったであろうかと勘繰ることも、矢張りせんないことである。
フォゲット・ミー・ノット。どちらともない呟きは風にまぎれ、どちらの耳にも届かなかった。
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ここはどこですか(謎)
銀さんと土方は対角線上なんだと思う。それは転じて同じ線の上に立っていることにもなって、じゃあどっちかがどちらかを追いかける図式にもなるかなぁという。妄想です。
線で結ぶことはできるけどやっぱり対角線だよねと。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。