ざくざくと雪が降るのをプラットホームの屋根の下から眺めている。
遠くでかんかんと信号が鳴っていて、小さくそれが彼の耳にも届いているから、何の信号かはわからないがそろそろ列車が来るのだろう。
まだ朝も早い。夜が明けたばかりで薄明るい、凍って澄んだ雪の朝である。
列車を待っているのはごく数人で、みな寒そうで厚着している。
彼もマフラーの影で、はあと息を吐いた。まっしろな煙のように呼気が立ちのぼった。
手袋をした手を擦り合わせていると列車が音を立てて滑り込んできた。プラットホームに向かい、扉がひらく。おおきな列車は雪まみれだ。彼の横を妙齢の女性が行こうとする。
見覚えのある顔に、彼はふと彼女を呼び止める。
「おい、どこへ行くんだい」
「東のほうに行くんです」
彼女は振り返った。
「葡萄色した東雲があるでしょう。あちらのほうへ。もう夜が明けましたので」
彼女は微笑んだ。まさしく彼の知る女性であった。
「そうかい。ついでにこっちはひどい雪だと、あっちに知らせてくれよ」
「ええ、わかりました」
それじゃあさようなら。
女性は列車に乗り込む。彼は立ったまま見送る。そのうちベルが鳴って、列車はまた雪を蹴立てて滑るように走っていった。
列車がすぐにけぶる雪に溶けるようにして見えなくなって、それと入れ替わるようにして、改札からプラットホームへの階段を男がひとり上ってきた。
「おら、買ってきたぞ。汁粉なんて胸焼けしそうなもん頼みやがって」
「ん?おお、俺のおしるこ」
缶の汁粉を受け取って、彼は手袋を脱いで缶をあける。男は缶コーヒーをあける。
「あーあったまる。負けたんだから文句いいっこなしだろうが」
「負けた云うな。じゃんけんなんざいい大人のやることか」
「わかりやすくていいじゃねーか」
「だからってだな」
男は云いかけてやめ、黙って身震いすると缶コーヒーをあおった。
「それはそうとさみーな。列車まだかよ」
「まだだっつの。ぜんぜん来ねーよ」
「さっき改札のあたりで、発車のベルが聴こえたような気がしたんだけど」
「気のせいだろ。次俺らが乗るやつはあともうちょい待たねーと来ないっつの」
「そうか」
プラットホームに人影はまばらで、幾人かその影を減らしたようにも見える。きっと彼らは先程の列車に乗り込んだのだろう。彼は缶の汁粉を飲みながら、一層白い息を吐く。
彼と男がそれぞれ缶を飲み干した頃に、定刻通り列車がやってくる。
彼らは空き缶を捨てる場所がなくて、手に持ったまま列車に乗り込む。
列車はがたんがたんと音をたて、降りしきる雪のなか、プラットホームを遠ざかって行った。
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彼→銀さん、男→土方、彼女→ミツバさん
着想は宮/沢賢/治「孤独と風童」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。