ずっと、いつかここから旅立たねばならないと思っていた。
ぜんぶ終わってから出てきたいと思ってて、でも終わらせちゃうと満足しちゃって。
終わらせちゃうと惜しくなって、終わってほしくなくなって。
でもぜんぶ終わらせちゃうことなんてとてもできなくて。少なくとも、なにかは残る。わたしの掌にはなにかが残る。
でも出ていこうと思っていた。
わたしが出ていったとしても、なにかは残る。あなたの掌にはなにかが残る。なにも無駄じゃない。なにもなかったなんてことはない。
すらりとした手足をわかれのかたちに笑顔でふって、彼女は扉から出て行った。
神楽を見送って、新八はぎゅっと握られた手を見下ろす。
掌にはなにも残ってはいなかったけれども。
残っている。たしかに。温度。手が緊張でうすく汗ばんでいたこと。握るつよさ。
きみが僕の手を握っていたということ。
たしかなことだった。今ここにないからといって疑うことが馬鹿らしいくらいに。二度と会うことがなくとも、それはたしかにここにあって、それを互いに大事にしてゆくことができるのだった。美化せずに疎かにせずに。ちゃんと抱えていってよいものだった。
「またね」
「うん、またね」
神楽は呟いた。
なんと素敵な言葉だろうか。
別離に耐えられるのなら、きっとまた会うその日には、あなたに恥じないわたしとして笑えるだろう。
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扉の逆光で神楽ちゃんの表情がわからないなかで、でも笑う口元だけは見えて、それで出て行く。
そんなイメージ。
銀さん不在の万事屋。でも銀さんがいないから出てくんじゃなくて。
英語の「Good bye.」ということばがすきです。直訳の「よい別れを」が「さようなら」よりも清々しくて。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。