彼女の相棒は長いことばを聞かない。途中で遮ってしまう。
胆力はあるが、気は長くないのだ。
そしてもうひとつ。
「椿、今日の飯なんだっけ」
「今日は煮っ転がしよ。あと、じゃこと蓮根の炒めもの。他に食べたいものはある?」
「んにゃ、別に」
リクエストがないというのは実際のところ困りものだが、それはそれで知恵を絞って残り物で何かを作る楽しみがある。小さなことで足るを知ることを椿は得意としている。
それに、彼女の相棒は食べたいものの要望を惜しまない。普段はそれで随分と楽をさせてもらっている。献立を考える必要がないということも、またバランスを考えて副菜を作る楽しみも、どちらも捨てがたく、また取捨選択する必要もない。
「椿。毎日作るの面倒か?」
「いいえ、ブラックスター。何故?」
「訊いてみただけだ」
家事は分担制のところが多いと聞く。だが彼らの間では専ら椿が担当していて、これで板についてしまったので今更どうこうというつもりもない。
それに二人ともわかっているのだ。
「わかってるぜ、椿は飯作るのも好きだし、食べるのも好きだって」
「おいしいっていってくれるひとがいるからよ。そうやって食卓を囲むのが、好きなの」
それができるのは、あなたがいるからよ。あなたが食べてくれるから。リクエストを出してくれるから。同じ卓に私もいる。
大事なことはそれだ。
おいしいものは誰かと食べてもおいしい。誰かのために作るのは楽しい。一日の糧を饗してくれるひとがいることは喜ばしい。献立を考えるのは楽しいし、献立を訊かずに食事の時間を楽しみにしているのも悪くない。要望を出してくれるのは嬉しい。要望が叶えられるのも、嬉しい。
ブラックスターの家事を椿が仕方なく肩代わりしているのではない。彼らにおいて、何が最も喜ばしいか、二人とも知っているのだ。
「椿の飯はうまいからな」
「ブラックスターはぜんぶ平らげてくれるから、作り甲斐があるわ」
「俺のために作る飯は、うまいだろ」
「うん。私が作ってて楽しいごはんも、おいしい?」
「当然だろ」
雄弁さはときに必要ない。感謝を詳らかにする必要もない。
必要なことは、たった一言で事足りるのだ。
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偉人の言葉で15題 207ベータ さま
マカとソウルは家事分担制、キッドと姉妹はぶっちゃけ使用人がいる気がする(でなければキッドが後始末=整理整頓するから誰も手を出しちゃいけない)、でも椿とブラックスターでは椿が全面的に家事担当してると踏みました。
他のところはどうなのかなー。一緒に住んでるところばっかりじゃないのかな。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。
ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。