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洛東

quod tacui et tacendum putavi.

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空蝉(金吾と喜三太)

落忍。
チーム神奈川こと、金吾と喜三太。

は組の同室コンビ・トリオってすきです。どれとはいわず。






夕方。委員会活動を終えた金吾が戸をくぐると、相部屋の喜三太が敷布にすっぽりくるまっていた。
顔も足も出ていない白い物体を見て、金吾は眉をひそめた。
「なにしてるんだ、喜三太」
喜三太はいません、という言葉が返ってきた。
「今ぼくはなめくじさんだよ。喜三太は留守です。御用はあとで伺います」
身動きもせずに変な敬語を使う。
金吾はまるまった白いものの横にしゃがみこんだ。
「じゃあ御用を承ってくれるかな、なめくじさん」
「…なめくじのぼくにできることなら」
「うん。喜三太にさ、三年の富松先輩が探してたっていってくれるかな。さっきすれ違ったんだ。怪我は誰のせいでもないって。かすり傷だって。そう云ってくれってさ」
大きななめくじは答えなかった。
「伝えてくれるかな」
重ねていうと、なめくじは沈黙を挟んで答えた。
「うん。…うん、必ず伝えるよ」
金吾はひとつ頷いて立ち上がる。
「それともうひとつ、今日の夕飯のあんかけ定食は人気だから、早く来ないとなくなるっていっておいてくれるかい」
なめくじは、わかった、と答えた。
それに満足して、金吾は泥や土埃で汚れた頭巾を畳んで置くと、食堂に行った。

食堂で定食を食べていると、喜三太が入口に姿をあらわした。こっちこっち、と手を振る。喜三太は気が付いてにこっと笑い、こちらに駆けてきた。目元が少し赤い。
「あんかけ定食、もうないぞ」
「ええっ早いなぁ。じゃあ金吾のひとくちちょうだい」
「いいけど、早くおばちゃんに注文してこないと、残り物のうどんか蕎麦だけになるよ」
ほんとだーと声をあげて、喜三太は注文に行く。結局頼んだのはきつねうどんだった。
「さっき、富松先輩に、会えたよ」
あんかけをひとくち分けてもらってにこにこと食べた後で、ぽつんと喜三太はいった。金吾は箸を動かす手を止めないままそれを聞いた。
「そっか」
「うん」
「大なめくじはちゃんと伝言をしてくれたんだな」
喜三太はにっこりと満面の笑みを金吾に向けた。
「もちろん。だってなめくじさんはとっても賢いぼくの自慢のおともだちだもの」
もちろん金吾もだけど、と付け足す喜三太に、金吾はぼくだって、と返した。そっぽを向いた頬が赤い。目元が赤い喜三太が目を細める。
「あ、そうだ頭巾ごめん。ぬるぬるにしちゃった」
「えっぼくの?置いておいたやつ?」
「うん、手近にあったから。大なめくじさんがぬるぬるに」
そんな、といいながら、金吾はなんとなく察した。手近にあったから。涙と鼻水で汚してしまった。
いいよ、と金吾は嘆息する。
「どうせもとから汚れてたし。洗濯するつもりだったから」
ごめん。喜三太が笑う。
今日、喜三太がその言葉を唱えるのは何度目なのだろう。そう思っていた金吾に別の響きを持つ声が届く。
「ありがとね」
「うん?」
なんでもないとばかりに喜三太は首を振った。
「あんかけ定食。おいしかった」
ごめんよりもそっちのほうがいい、と金吾は思った。だってそのほうが、定食はおいしいのだから。




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用具委員会でへまをやって誰かが怪我をしたと思ってください。
たぶん怪我したのは六年の食満。富松は自分がした怪我だったら怒らない気がする。
落ち込まないのはしめりけクオリティだけど、喜三太だってしんべヱだってたまには落ち込むだろう、同室の子にはうっかり見せたりすることがあるだろう、なんて。

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フラグメント

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〈落忍〉
生い先こもれる窓のうちなるほど(滝夜叉丸と綾部)
かじつ(五年ろ組)
営門を仰ぐ(小松田)
艶書(会計委員会)
俺の指を噛んで(六年は組)
裏打(伊助とは組の誰か)
全てを捧げる朝(きり丸)
今夜の嵐は荒れるだろう(久々知と伊助)
空蝉(金吾と喜三太)
知音(双忍)
寄する波(会計委員会)
故にあなたを捨てられない(図書委員会)
内密(双忍)

〈グレンラガン〉
手折る指先(ロシウとシモン)
順列のともし火を絶やさぬよう(ロシウとヨーコ)

〈ソウルイーター〉
「ひどく憎んでいるかぎり、まだいくらか愛しているのである。」(シュタイン)
「人間よ。汝、微笑と涙との間の振子よ」(ソウル)
「どんな忠告を与えるにしろ、長々と喋るな。」(椿とブラックスター)
秘密という寓話(マカとソウル)

〈SilverSoul〉
葡萄色した東雲に(銀時と土方ととある女)
フォゲット・ミー・ノット(土方と銀時)
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〈APH〉
夕焼けに薔薇と桜(イギリスと日本)
ドリンクはお好みで(フランスとイギリスとアメリカ)
約束の約束(アメリカと日本)
落葉の手(日本とイタリアと)
寒鴉ひとこえ是と哭けり(プロイセンとロシア)
わたしの緑、わたしのケロイド(イギリスとアメリカ)
藍より出でて(イギリスと日本)

〈fkmt〉 
2番までは知らない(カイジとアカギ)
銀河と君が近かった時代(ひろと赤木さん)
高さのちがう肩に降る(しげるとカイジ)
きしんだ髪と遠くの愛(カイジ)
先生が優秀でしたから(ひろと赤木さん、市川さんとアカギ)
失う前に捨てなさい(カイジとアカギ)
手遅れになったら会いましょう(アカギとカイジ)
ていたらくの作り笑い(しげると涯と零とカイジ)
今はまだ昨日のこと(赤木さん)

〈neuro〉 
アーケオプテリクスの緑(弥子とネウロ)
a solitary example.(弥子とネウロ)
ラワーレ(弥子とネウロ)
いつも五分前(篚口と弥子)
The sleeping Cat.(ネウロと弥子)
n and y(弥子とネウロ)

〈其の他〉
春風の地平(はぐと花本先生)
無何有郷(ベルとキティ)
蓮(曽良と芭蕉)
君は呟く。(中禅寺と榎木津)
ダーリン・フロム・ヘル(笠野と達海)
くたばってしまえ(静雄と臨也)
こどもは隠れるのがうまい(ジャーファルとアラジン)

〈一次創作:掌編〉
薄荷はレモン
香典はセロリ分引いといたから次は蟹で頼む
星に願いを
みかん捨て場には近いし隣室がちょうどいい
語感で会話してるとこうなるっていう一例
十年一日(俺の十年、奴の一日)
コーヒー置いてけ
船出の刻
透明人間は派手で儚いレインボーの夢を見る
モ・クシュラ
蝶々が尋ねる花はこの野にある
秋は剥落

管理人:りつか

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

quod tacui et tacendum putavi.…「わたしが語らなかったこと、そしてわたしが黙っているべきだと思ったこと」。いわぬが花を口にする無粋、を承知で語らずにはおられない気持ちで。

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

 





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