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洛東

quod tacui et tacendum putavi.

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順列のともし火を絶やさぬよう(ロシウとヨーコ)

グレンラガン。ロシウとヨーコ。
四部の結婚式終了後すぐの会話。






行ってしまったなぁ、と息を漏らした。言葉にならなかったそれを拾ったかのように、ヨーコが呟いた。赫い髪を桜色の花弁の舞う風にまかせて。
「行っちゃったわねぇ」
一拍置いて、そうですね、とロシウは返した。行ってしまった。
彼はもう戻ってこない。行ってしまった。どこかへ、遠いところへ。でもとても近しいところへ。いつも行こうとしていたところへ。
ロシウはずっとそれを予感していて、恐れていた時期や厭うていた時期もあったのだけれど、すべては遠い過去のようだ。
今のロシウには、彼の背中を見守るわずかな寂寥とともに、門出の祝福の思いがある。今日のロシウは牧師役だった。彼は今日、新たに、相応しいところへ旅立ったのだ。
ロシウには別に背負うものもある。置いて行かれるという思いはなくなることはないが、託されたもの、自分にしかできないこと、誇りと覚悟が同じだけの意味と重さで在る。後を任された。やらなければならないことは山ほどある。
ロシウはぽつんと云った。
「行ってしまいましたね」
ヨーコが目線をこちらに寄越す。
「シモンは受け継いだのよ。そして、それを次に渡した。より善いものとなるように。より善いものとするように。次の世代に何かを手渡すっていうのは、勝手な押しつけだけじゃないわ。願いだけでもない。自分たちのやってきたことの努力と責任をひっくるめて、その度量にかけて、問うのよ、自分に。より善いものとできるか?ってね。そして次に渡すの。より善いものにしてみせろ、って。それは宿題だし、最後の置き土産だし、疑問符だけど、贈りものでもあるのよ。でも、紛れもなく、受け取った次の世代の子たちのものでもあるの。それはあの子たちのものなの。彼らは受け取るべくして、受け取るのよ」
云い終えて、ヨーコは首を横に振った。ゆっくりと苦笑する。
「いやね、つい。職業病かしら」
「いえ…」
ロシウは答えて、赤い焔を翻した彼が去って行ったほうを見た。みな、受け取ったものがある。もらったそれを得難く思うからこそ、違うかたちで誰かに返せたらよいと望むのだろう。
彼は炎を受け継いだんですね、とロシウは云った。
ヨーコはロシウを見て、片眉をあげた。
「あたしの炎だって、ここにあるわよ?」
不敵に笑ってみせて、ヨーコは背を向ける。どういうことかと問おうとしたその背に、もちろん炎の刺青はない。しかし。
束ねられた髪が揺れる。しゃん、とまっさらな刃の鍔鳴りのように。ヨーコの赫い髪が、風のように自由な軌跡をたどってなびく。
誰かから受け継いだものではなく。またはあり。彼女は彼女の炎を纏う。凛として、軽やかに。
その背中に、たくさんの誰かを思い出した。見慣れたもの。見送ったもの。見届けたもの。気付けばたくさんの背中が、ロシウの傍にはあったのだった。そう気付いた。
それらがロシウを追い越して、先に行ってしまったことも。
(ヨーコさん)
どこででもいいから、どこかで生きていてください。どこかで笑っていてください。
(たぶん僕の望みは、それだけです)
いっそ勇壮に髪をなびかせて、ヨーコは行ってしまった。その背中が見えなくなってから、ああ彼女はだから僕のもとにも炎はあるのだと、そう云ってくれたのだと、不意にロシウは気が付いた。




----------------------------------------
シモンにとっての炎がサングラスとかマントとか場合によっては指輪とかだったりするのに対して
ヨーコはヨーコであるだけで炎で
ロシウのともし火はたくさんの誰かの背中なんだよね、という。

女の子のつよさと、シモンのつよさの源と、熱血大グレン団とはちょっとノリが違うなりにちゃんと大グレン団メンバーでもあった微妙なロシウの見るみんなの後ろ姿。それを支える、見守る見送る、みたいな。

「順列のともし火」は、祝意にも葬列にもどちらとも。

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フラグメント

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〈落忍〉
生い先こもれる窓のうちなるほど(滝夜叉丸と綾部)
かじつ(五年ろ組)
営門を仰ぐ(小松田)
艶書(会計委員会)
俺の指を噛んで(六年は組)
裏打(伊助とは組の誰か)
全てを捧げる朝(きり丸)
今夜の嵐は荒れるだろう(久々知と伊助)
空蝉(金吾と喜三太)
知音(双忍)
寄する波(会計委員会)
故にあなたを捨てられない(図書委員会)
内密(双忍)

〈グレンラガン〉
手折る指先(ロシウとシモン)
順列のともし火を絶やさぬよう(ロシウとヨーコ)

〈ソウルイーター〉
「ひどく憎んでいるかぎり、まだいくらか愛しているのである。」(シュタイン)
「人間よ。汝、微笑と涙との間の振子よ」(ソウル)
「どんな忠告を与えるにしろ、長々と喋るな。」(椿とブラックスター)
秘密という寓話(マカとソウル)

〈SilverSoul〉
葡萄色した東雲に(銀時と土方ととある女)
フォゲット・ミー・ノット(土方と銀時)
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〈APH〉
夕焼けに薔薇と桜(イギリスと日本)
ドリンクはお好みで(フランスとイギリスとアメリカ)
約束の約束(アメリカと日本)
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寒鴉ひとこえ是と哭けり(プロイセンとロシア)
わたしの緑、わたしのケロイド(イギリスとアメリカ)
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〈fkmt〉 
2番までは知らない(カイジとアカギ)
銀河と君が近かった時代(ひろと赤木さん)
高さのちがう肩に降る(しげるとカイジ)
きしんだ髪と遠くの愛(カイジ)
先生が優秀でしたから(ひろと赤木さん、市川さんとアカギ)
失う前に捨てなさい(カイジとアカギ)
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〈neuro〉 
アーケオプテリクスの緑(弥子とネウロ)
a solitary example.(弥子とネウロ)
ラワーレ(弥子とネウロ)
いつも五分前(篚口と弥子)
The sleeping Cat.(ネウロと弥子)
n and y(弥子とネウロ)

〈其の他〉
春風の地平(はぐと花本先生)
無何有郷(ベルとキティ)
蓮(曽良と芭蕉)
君は呟く。(中禅寺と榎木津)
ダーリン・フロム・ヘル(笠野と達海)
くたばってしまえ(静雄と臨也)
こどもは隠れるのがうまい(ジャーファルとアラジン)

〈一次創作:掌編〉
薄荷はレモン
香典はセロリ分引いといたから次は蟹で頼む
星に願いを
みかん捨て場には近いし隣室がちょうどいい
語感で会話してるとこうなるっていう一例
十年一日(俺の十年、奴の一日)
コーヒー置いてけ
船出の刻
透明人間は派手で儚いレインボーの夢を見る
モ・クシュラ
蝶々が尋ねる花はこの野にある
秋は剥落

管理人:りつか

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

quod tacui et tacendum putavi.…「わたしが語らなかったこと、そしてわたしが黙っているべきだと思ったこと」。いわぬが花を口にする無粋、を承知で語らずにはおられない気持ちで。

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

 





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