fkmt越境。
アカギ(19歳)とカイジが大体現代でだらだら仲良く(?)してる話。
まさにやまもおちもいみもない。
この二人がつるんでたらいいのにと思っただけ。
テレビを見ていた赤木が珍しく、あ、と声をあげた。
たまに訪れる闖入者に慈悲深くも冷蔵庫から缶ビールを持ってきていた俺は、奴が何を見ていたのかわからなかった。
「知り合いでも出たかよ」
いや、と赤木は答えた。画面を見ると、音楽番組だ。実に珍しいものを見ている。
昭和の歌謡曲特集など、正直、俺にはさっぱりわからない。
赤木はテーブルに頬杖をつきながら、黙ってそれを見ている。いや、聴いている。
「知ってんのか、こんな古い唄」
ああ、と赤木は答える。
「懐かしい」
奴の表情からこれといった感情は伺えない。しかし、だからこそ呟かれたことばが、ぽつんと部屋にさざ波をつくった。
実に、珍しい。こいつがそんな台詞を吐くことが。
珍しいなどといったところで、俺はこいつをよく知らない。知らないが、賭博の申し子であることは知っている。そんな男が、懐かしいなどといって、古い唄に耳を澄ませる。案外こいつも、人の子だ。
俺はこいつをよく知らないが、こいつも俺をよく知らない。ただ、互いに、お互いが交わらないということは知っている。というより、こいつは誰とも交わらない。世界が違う。歩いている道が違う。見ているものが違う。
俺が地べたを這っているとしたら、こいつは地の底にいる。地獄の淵にいる。
異質だ。だが、こうして俺の部屋に顔を見せるとき、こいつはまったく余暇か何かのようで、牙をのぞかせることはまずない。ないが、牙があることはわかる。その牙が、恐らくこいつの中身なのだ。
だから、滅多にないことなのだ。
唄が終わった。俺は赤木の前に冷えたビールを置いてやる。
「どうも」
「お前でも唄とか聴くんだな」
「そりゃ…それなりにね。聴こうとせずとも耳に入ってくるもんだってあるでしょう。俺にとっちゃ、今のはそう…いわゆる流行歌だったからね」
「ふぅん。こんな古いのを好んで聴く身内でもいたのかよ」
「まぁ…そんなところですよ」
軽くはぐらかして、ビールをひとくち煽った。少し笑っている。俺は、俺の質問が的を外れていることを知った。知ったが、実際のことなど訊いて確かめても仕方がないし、きっとこいつは話さない。
俺たちは互いを知らない。知らないが、知らないでいい。別にそれでも、こうしていることはできる。俺達は恐らく、こうしていることしかできないのだ。これ以外や以上となると、どちらかがどちらかを損なう。そして損なわれるのは、たぶん俺だ。
こいつは地獄の深淵で足を踏み外しそうになりながら踊る、勝負事しか身の置き場がない。この男相手にそんな真似をして、生き残れる目は限りなく薄い。どちらに利もない。
だが、敗北の予感に怯えて、関係を変えずにいるのではない。
俺が知らずにいるのは、こいつとつかず離れずでいるためだ。何となく───そう、我ながら珍しいことに、俺はこの男と知り合いでいたいらしいのだ。
赤木が缶を置いて、またテレビに目をやった。
「これも知ってますよ」
「へえ。歌えんのか」
「いや。一番しか知らないんでね。あとはサビ」
「はは、俺もそんなもんだ」
もっとも有名なサビのワンフレーズ。歌い出しも知らない。ただおぼろげに、そんな歌を知っているという感覚だけがある。
まるで、俺とこいつのようだ。
一番しか知らない。お互いにとっての唯一しか知らない。知らなくてもいい。二番以降は、知る由もない。
*****
蕾
as far as I knowさま
知らないってことが、お互いがここにいる意味なんじゃないかっていう二人。
何となく雀荘で出会った前提です。
カイジはアカギがギャンブラーだってそこで知ってるから、他は必要ないっていうぐらいの態度のアカギに納得できちゃうんだと。アカギはカイジを、わかんないひとだな、と思ってる。勝てる人間じゃなさそうなのに生き残るから。
「もっとも有名なサビのワンフレーズ」「一番」=突出した才
「歌い出し」=どうしてそうなのか、そんな人間なのかという所以。過去。
「二番」=自分の知る部分以外の隠喩。
みたいな…
カイジさん地下帝国で強制労働してたんだから地の底の男だってそう遠くないんじゃない?(笑)なんて。
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