GIANT KILLING。十五巻読了時に十六巻みる前にこれだけはと思って書きなぐったもの。
十六巻読了したら、なんか別に間違いでもないような気がしてきて。
笠野さんと達海。現在。
笠っさん、と達海の声が響いた。
「あんたもそろそろ、十年前の亡霊から解放されてもいい頃だ」
あんたも、と達海は言った。
そう。あんたも。俺も。
それとフロントの何人かも。
「俺はもうあのピッチを走ってねぇの。俺はここにいんだよ。監督として、ETUに」
フロントの若手は今の俺見てるぜ。だから有里は容赦ねぇの。
笠野は苦笑した。
「…後藤も有里ちゃんも、十年前にゃフロントじゃなかったからな。ピッチに立つお前を、俺や兄やんとは違う目で見れた。俺りゃ、たしかにGMとしてお前を見てたよ。それが俺の仕事だったしな。だからお前を、俺の仕事にしちまった。よってたかって食いもんにしちまった。今、お前が手前で居場所見っけて、そこに立ってんのにゃ素直に感激する。嬉しいぜ。けど同じことが二度起こらないとはいえねぇんだぜ」
「笠っさんはそんなことしねぇよ」
「どうだか。前科がある」
「今の俺はそんなんに食い潰されたりしねーよ。この十年何だと思ってんのさ。大人の考え方するようになったなって、さっき自分でいったろ」
「二十五年培ったもんを潰されといて、今度は十年のキャリアでそんな大口叩いちまっていいのかい?」
強情だなぁ、と達海は殊更呆れたように嘆息してみせた。
「今の俺は三十五年のキャリアがあるんだよ。選手として立ってたからこそ、俺は十年も監督して来れたの。なんも無駄じゃねぇし、駄目になってなんかいねぇ」
大丈夫だよ、笠っさん。
「俺もあんたも、そんなにヤワじゃないだろ」
今度は笠野がやれやれと嘆息する番だった。こいつにはこうして呆れた声をあげるばかりな気がする。だが悪い気はしない。けして、悪い気はしない。
久方ぶりのはずなのに、なんだかやけに馴染み深いような、妙にしっくりくる居心地の良さをおぼえた。もう二度と肌におぼえることはないと思っていた、小気味良い声音の響きだった。
「十年経っても変わってねぇなぁ。お前のその、人ったらし」
「たらしてるつもりはないんだけど」
「ますますもって性悪め」
ふ、と達海は笑った。
「たらしこまれてくれんのなら、構わねぇんだけど」
実に、性悪だ。笠野は声をあげて笑うと、そりゃ一興だなといった。
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タイトルは歌からです。「目が覚めれば英雄だったなんて嘯いて」「あなたはきっと地獄からやって来たんだろう」…
GR/AP/EV/INE 「Da/rl/in' fr/om he/ll」
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