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洛東

quod tacui et tacendum putavi.

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藍より出でて

ヘタリア。日本とイギリス。

人名表記です。
いろいろ調べてないで書いてるんでツッコミどころ満載。






菊は物持ちがいいほうで、というか床下やら天井裏やら納戸やらにため込んでおくタイプらしく、時折なにか出してきては、懐かしそうに愛でている。俺は懐古主義と馬鹿にされるが、こればかりは菊も笑えないと思う。

だから、庭に面した縁側で、茶請けとして出されたふかしたさつまいもが乗ってる藍色の皿が深い味のあるもので、ああこれもそうかなと思ったのはそんなに不思議ではないことだ。

人間国宝なんてものが、日本にはある。重要無形文化財の、人間に適用された通称。
芋を頬張りながら皿を指さすと、菊はそう説明して笑った。

「お前はよく保護してるほうだと思うよ。実際、国土と居住可能な土地の割合から見ても、遺跡なんてまるごとそのままにしておけるのはギリシャぐらいだろう。先進国が古いものを守るのは難しい話だからな」
「欧州の方々はみな、古きよきものと共存して、共生していらっしゃる。それに比べれば、わたしはまだまだ」
「俺たちは歴史を放り出せないんだ。現在より過去のほうが重いのかって、たまに自分に揶揄してやりたくなる」

気候風土の違いもある。欧州の石の建築物は、何百年でも残る。対して日本の紙と木の建築物は、地震や火事の危険に晒されている。残る、残らないというのはそういう問題からもいえる。

「俺たちのところの建築を勉強したやつは、まともならみんな修復師になる。古いものをなおして、補強して、常に手をいれて、使えるようにする。その仕事で手いっぱいなんだ。保護して残しておくのは、勿論歴史もあるし、残せるものなら残しておきたいという気持ちもある。でも、そうするしかない、という消去法でもある。残しておくしかないから、残しておく。そういう側面もある。お前のところが、次々と新しいものを生産して消費していかなければ、経済も文化も立ち行かないように、俺たちのところは、残しておかなきゃ、何も立ち行かないんだ」

菊は渋いお茶で喉を潤した。

「伝統と格式が売りのあなたとも思えぬ発言ですね」
「だからこそいえるんだよ。伝統と格式がなけりゃ、俺のところは立ち行かない」
「でも、わたしはそれに憧れる」
「俺はお前のほうがすごいと思うけどな」

常に新しいものを次々生み出して、適応して。そのうえ古いものも一方では先へ継ごうとするなんて。
だが菊は頭を振った。

「だからこそ、わたしのところでは常に失われるものがあるのです。あなたがたのところでは、それは弊害もあるのでしょうが、でも暮らす人々がそれらを慈しんでいる。自らの立ち位置を知っている。過去から至る、自らのルーツを。だから生きることに迷わない。意味付けを求めず、人生をただ人生として謳歌する。何にでも意味付けをしてしまう節のあるわたしが憧れるのは、それです」
「俺らのところには、歴史に裏打ちされた“物語”が今もあるっていうのか?」

ポストモダンの崩壊でそんなものはみんな失効してしまったというのに。
だが菊は頷いた。

「ええ、たぶんきっと。過去というかたちになったからこそ意味のある、歴史という名の物語が」
「…お前のところにだって」
「いったでしょう。常に失われつつあると。わたしたちは、──いえ、わたしは忘れることが得意なのです。もう、お爺さんですからね」

だからこそ、守ることで、そういうものが今もあることを、思いに留めておきたい。

しばらくの間、俺たちは黙って庭を眺めていた。芋のおかげで喉が渇いて、茶をすすった。
菊が盆から急須を手にとった。
 
「お芋、どうぞ。焼き芋屋さんが近くまで来たので、さっき買ったばかりなんですよ」
ああ、といって俺はまたさつまいもを頬張った。深い色をした四角い皿から。
こうやって何気なく普通に、本来の用途で使うことが、守る、続ける、次に継ぐということではないかと俺は思い、菊にそれを伝えようとした。だがふと見た彼は急須から茶をそそぎながら、穏やかな表情をしている。その顔を見た瞬間、彼には百も承知のことだとわかった。だから何もいわず、黙って口を動かしていた。
しかし。
「…焼き芋屋さんって?」
「ああ、ご存じないですか。昔なつかし、リヤカーで、さつまいもをふかしたおじさんが、い~しや~きいも~、おいも~、おいしいよ~、とですね」
 
残ってんじゃん、古きよきもの。




*****
欧州でいうところの焼き栗屋とかみたいな。
イタリアでいうジェラート、イギリスでいうフィッシュ&チップス、アメリカでいうホットドッグやレモネード、みたいな。これらは移動じゃなくてわりと常設だからちょっと違うかな。

アーサーはさつまいもを「へえこんなの食べるのか」と思って食べてる。きっと菊も焼き栗の屋台を欧州で見つけたら「ふーんこういうのあるのか」と思って食べるんでしょう。

タイトルは「青は藍より出でて藍より青し」より。

しかし推敲ほぼゼロ、寝かせ期間ゼロで書いて投稿してるのであとで致命的なミスが見つかりそうだぜほんと恐れ入ります。有形・無形文化財についてはもっと勉強したい!
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管理人:りつか

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

quod tacui et tacendum putavi.…「わたしが語らなかったこと、そしてわたしが黙っているべきだと思ったこと」。いわぬが花を口にする無粋、を承知で語らずにはおられない気持ちで。

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

 





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