デュラララ。静雄と臨也。
BLを書いてみようという試みなのでシズイザのつもり。
題名が思いつかなくて長いこと仕舞ってあったもの。
「ねぇ、俺は君にだったら殺されてもいいよ。君にだけは殺されるつもりはないけど。でもいつまかり間違って殺されたっておかしくはない気がしてるんだ。君が力加減を間違ったら。いいや、ただしく力を使ったら。そうさ、君のただしい力の使い方はそれなんだ、シズちゃん。化け物は化け物らしく、破壊の限りを尽くしてればいいんだよ。それで俺が死んだって誰が死んだって、だからなんだっていうんだい。君は俺で力の使い方を身につけてた節があるけど、今となっちゃ、俺はそれをちょっとばかり後悔してるんだ。いや、反省かな。君は俺がいつも立ち上がるから、それに安心してただろ?だから俺に向かって来た。俺が必ず立ち上がるから。向かって来るのは俺がむかつくからだって?ああ勿論そうだろうね、君は頭に血が上ったら周りなんか見えないし手加減もしないしできない。でも殺しはしてないんだ、いつも。死んでもおかしくはないけどね、いつも!知ってたかい、俺に矛先が向いてるとき、俺を憎んでいるとき、君は他のものを憎んでいなかった。苛つきはしたかもしれないけどね。君は俺を憎むとき、暴力も、君自身も、憎んではいなかった!そもそも一度に二つ以上のことが考えられたら君はそんなにキレ易くなんかなかっただろうね。あー可哀相に。単細胞でよかったね、シズちゃん。君は俺を憎むことで救われてたんだよ。勿論君の知らないところで。絶対に感謝も理解もされないところで。別にそれはどうでもいいさ。君に感謝されたいわけじゃないし、理解されたくもない。そんなもの寒気がする。俺は君を救いたいわけじゃないし、君に救われたいわけでもない。殺されたくはあるかもしれないけどね」
臨也の話はぐるりときれいに一巡した。
静雄は紫煙を吐いていった。
「てめぇのいうことは、これっぽっちもわからねぇ」
臨也は笑った。
「シズちゃんの、そういうところが大嫌い」
「で、大人しく殺されてくれるわけか」
「やだな。俺を殺す人間を挙げるとしたら、って意味であって、別に今ここで死にたいわけじゃない。俺は自殺志願者じゃないし被虐体質でもないよ。ただ、ねぇ、つまらないだろう。年をとって死ぬなんて。勿論悪くはないさ。でも、なんだかつまらないだろう。先が見えてるってのは。だからさ、明日も見えないような日々のほうが愉しいだろう?ほんとに見えなきゃ俺の商売あがったりだけど、そこはそれ。だから正直、いつ殺されたって仕方ないようなことやってるし、考えちゃうんだよね。そこらの路地とか、池袋や新宿の交差点でさ、チンピラや金握らされたガキに刺されたり鉄パイプで殴り殺されたりするの。そんなのやっぱりつまらない結末だろ?それが俺の最後かと思うと、あーなんてつまんないんだろ、って思っちゃうよ。その点、君は化け物だ。チンピラに刺されるよりは、つまらなくない。でも、やっぱり君は化け物だからね。愛すべき人間ならまだしも、化け物に殺されるだなんて、死んでも死にきれない。真っ平御免だ。じゃあこういうのならどうだろう?君が人間になるんだ。そして俺を殺す。まだましかな。でも化け物は人間になんてなれないから、無理だね。俺も君に殺されるよりは殺したい派だし。あぁ、ねえシズちゃん。俺を殺す前に俺に殺されてくれない?」
「頭沸いてんのか」
静雄はずっと臨也の言葉を聞き流して、声だけを聞いていた。結局脳に届いたのは最後の一言だけだ。
臨也は静雄とこんなにも長い間、激昂せずに向かい合っていたことはないので、訝しく思いながら時間稼ぎの長話を続けた。
「結論に入ろうか。君みたいな化け物に殺されるなんて反吐が出るけど、君以外の誰が俺を殺すに相応しいんだい?いっておくけど、俺は君に殺されたいわけじゃないよ。殺したいんだ。消えてほしいし死んでほしい。君以外で俺を殺しそうな奴だって顔を浮かべられる範囲で腐るほどいるし、忘れた顔も含めたら数えきれない。でも、怨恨だとか痴情の縺れだとか、組の関係だとか金の切れ目だとか、そんなのが一体なんだっていうんだ?せめて君が殺しに来いよ。どうせ死ぬなら君の殺人履歴第一号になってやる。君は俺を殺す代わりに俺に殺されるんだ。そのっくらいでないと死ぬのもつまらない」
「そうかよ」
「で、シズちゃん。どうして君は俺を殺しもせずにこんな長話を聞いてくれるのかな?」
「どっからが遺言になんのかと思ってな」
静雄は吸いさしの煙草を足元に落とした。じゅっと音をたてて煙草は消えた。
血も水と同じ音をたてるのだと、静雄は場違いなことを思った。
臨也の出血はそう多くない。傷は足にある。刺されたのではなく撃たれたのかもしれない。
傷のすぐ横に落ちた煙草に臨也は嫌そうな顔をした。
死ぬほどではない。命に別状はない。
だが機動力のない臨也など恐れるに足らない。少なくとも静雄には。逃げないのであれば殺してくださいといっているようなものだ。
自分が手を下さなかったとして、こいつは新宿まで帰れるだろうかと静雄は訝った。運が良ければ帰れるかもしれない。悪ければ二度と帰れない。確率はわからない。
「放っといててめえが死ぬなら万々歳だ。俺がてめぇを殺す義理はねぇよ」
「見殺しかい。未必の殺意っていちばん性質が悪いよね」
「遺言くれぇは拾ってやろうかと思ったが、やめだ。てめぇの遺言なんざ誰に伝えたらいいかわからねぇ。マイルとクルリもいらねぇだろう。黙って死ね」
誰にも何も伝えずにそこで朽ちろ。
臨也は息だけで呆れたように笑った。血圧が下がって視界が暗いのか、立ったままの静雄を視線だけでやぶ睨みに見上げる。痛みで脂汗をかきながら口元を歪める様は、それでも傲慢そうだった。
「実はこれが遺言のつもりだったんだ。聞いてる?シズちゃん」
「これ、ってな、どれだ」
「ぜんぶ。全部だよ」
「すべてが死ぬまでの暇つぶしなら、俺の今に至るまでのすべてのことばが遺言さ。ねぇシズちゃん?君、明日死んでも後悔しないだけのことばを、伝えたい人間に残してあるかい?」
その一言だけは、戯れ言ながらもよく耳に残った。
だからそれを遺言にしよう、と静雄は勝手に決めた。
「よし。死ね」
「えっ今?」
「てめーのことばは聞いてるだけで反吐が出るが、つまり覚悟ができてりゃいつでもいいってことだろ。死ね」
「いやいやそうじゃなくて、ここまで長々喋っておいて、なんで今になって?」
「きりがねぇからな。いや、きりがいいからな」
「意味わかんない」
肩を竦めた臨也がちらりと路地の出口を横目で見た。思わせぶりな視線につられて、そちらに目を向けたが、誰もいないし何もなかった。
だがその一瞬で、臨也は脚を引きずりながら立ち上がり、ふらりと逆の方へ向かい、距離をあけた。
「あいてて…残念シズちゃん、時間切れだ」
迎えが来た。
隠し持った携帯電話で呼んでいた車が来たらしい。シートを血で汚すとうるさいんだよなぁ、などといいつつ、へらりと臨也は笑う。癇に障る笑い方だ。
「目撃者が来てくれたところで、どうだい?俺を殺すかい?」
「…くそが」
傷のある脚にほとんど体重をかけずに立っているのが見てわかる。臨也は逃げないだろう。逃げられないだろう。
とどめをさすなら今だ。
だが静雄は黙って煙草を取り出し火をつけた。ふうっと煙を顔に向かって吹きかけてやる。臨也は副流煙とらしくない静雄の行動に眉をひそめた。
「遺言はきいた。もうてめぇに用はねぇよ」
ふぅん、と首を傾げながら少し苛々としたように臨也は笑った。
「そうかい。じゃあ、次は君の遺言をきかせてもらうから、用意しててくれよ」
「次があればな」
「あるよ。次は俺が君を殺しに行くときさ」
「てめーに残す遺言はねぇ」
静雄は背を向けて路地を出た。背後で臨也がナイフの切っ先のような目をひからせてこちらを見ているのがわかったが、ナイフは一センチも静雄には刺さらないし、ましてや視線では一ミリの傷も与えられるはずがなかった。
俺の遺言は、と静雄は思う。
俺の遺言は、てめぇを殺した後の心地よい沈黙の中で、じっくり落ちついて考えるとしよう。
*****
BLのつもりだったけど読み返してみたらまっ………………ったくBがLしてなかった。
シズちゃんといざやで会話がこんなに成り立つなんてあり得ないので、そこらへんのファンタジー具合がBLということでいいんじゃないでしょうか(あきらめ)
いざやさんの台詞マジキチ。
死に水をとろうとするシズちゃんマジきまじめ。
迎えは四木さんとこの車でも、自分運び依頼してセルティでも、全然関係ない何かでもいい感じで。
「あなたにころされてもいいわ!」だなんてあんまりにも陳腐で安いメロドラマだけど、この二人にはちょっと似合う気がして。
「あなたのためなら死んでもいいわ」は「I love you」の和訳として有名だけど、その訳をした二葉亭四迷のその芸名の由来が、「くたばってしまえ」だとは微妙に知られていないらしいです。その由来の信憑性も微妙なんですが。
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