忍者ブログ

洛東

quod tacui et tacendum putavi.

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

The sleeping Cat.

ネウロ。ネウロと弥子。






ネウロは割とよく眠る。ここが事務所で彼の巣だからなのか、最近の事件で魔力の消費が大きいためなのか、ともかく昼間でも、彼女が居ても、よく寝入る。
ちゃんと夜に寝てるんだろうか、と思いながら、弥子は時々膝を貸す。寝心地が悪いとどつかれながら。
椅子に腰かけたままこちらに背を向けて、居眠りをすることも時々ある。そうしたときは、弥子はソファで宿題をやったり、事務所に来る道すがら買ったコンビニの新製品を食べたり、あかねのトリートメントをしたりする。
最も多いのは、天井にごろりと寝転ぶことだ。彼は地上の法則に縛られない。だらりと落ちた涎が床に焦げ穴を作っていて、なんとなく、弥子は寝煙草で小火、というのを思い起こした。この事務所に絨毯を敷いてなくて本当によかった。
だからネウロの寝顔など見慣れたものだ。ただうっかり時々鳥頭になっていることがあって、そちらのほうが、余程珍しい。思わず、おお…とじっくり眺めてしまい、ねじくれた角や彼女の頭を一飲みにできそうな嘴を、恐ろしいと思うのではなく、単純に珍しいと思ってしまったことに、何だか微妙に違うんじゃないかと複雑な気分になった。
ネウロはよく寝入る。たとえばそれは、折角彼女がいて、真昼間で、謎を探しに行くにはよい日和だったとしても。
それを、疲れてるのかな、とか、夜型になっちゃったんだろうか、とか、色々と勘繰ってみたが、どれも正解で、どれも少し違う気がした。
ただ弥子は、ネウロが眠っている間の静寂を嫌いではない。そうして事務所で何でもない日を過ごすことも。
そして今、謎を解いて、帰って来て、とりあえず今日は満足、とばかりに眠りこむ魔人に、なんだかこどもが昼食の後に昼寝をするみたいだな、と思って、知られたら恐ろしい目に遭う気がしたので、そっと微笑を隠した。
だが隠す仕草でばれてしまい、何やら不穏な笑顔と共にどつかれて、強制的に睡眠をとる羽目になった。
 
ネウロは目を回してしまった弥子を見下ろす。大分タフになって来たようだが、体力的に及ばない部分はあるものだ。彼女の年齢と体格では、タフといっても自ずと限界は見える。食欲と胃袋の許容量に限界は見えないが。
首根っこを猫の仔のように掴んでソファに投げ飛ばす。スプリングがいい音をたてて軋んだが、弥子は目覚めない。放っておくことにする。ネウロはそのまま歩いていって椅子に腰かけた。
弥子は事務所でよく居眠りをする。彼自身が謎を探しにふらりと出歩いている間に。
或いは謎を探して帰って来て、疲労と眠気に耐えきれなくなって、うとうとと船を漕ぐ。すぐに自宅に帰ればいいものを。あかねに茶を淹れてもらい、今日は一段落、とばかりに熱い紅茶を啜って、瞼を重くさせる。あかねがまた気を利かせて、鎮静効果のあるハーブティとやらを淹れるのも一因だろう。ふっと気が緩むのだ。
それとは別に、彼が調べ物などでパソコンに向かっているとき、暇な彼女は学校から出された課題をしている。気が乗らない作業なのだろう、すぐに集中が切れる。暗記科目だという単語帳を膝に置いて、涎を垂らしてこっくりこっくりと首を揺らす。単語帳には赤ペンで引いたアンダーラインよりも、涎の染みのほうが多いに違いない。馬鹿らしいので確かめてみたことはないが。
弥子が何かを食べている。あかねのトリートメントをしながら会話に花を咲かせている。あかねがパソコンのキーを叩いている。パソコンの画面に熱中していたネウロがふっと顔を上げると、そこには見慣れた景色があって、たとえそれが珍しいものであったとしても、何故か既視感と共に受け入れられる。たとえば弥子はものを食べながら眠り込むことはない。だがそれを目にしたところで、馴染み深いものを見たような気分になるのだろう。彼女が睡眠欲よりも食欲を優先させるのは至極ありそうなことだから。
「食い意地の張ったやつめ」
涎を垂らして眠っている弥子にそう呟いて笑うのは、よくあることだ。だが彼は知りもしない。知る由もない。彼女もまた同じ台詞を、眠る彼に向かって、苦笑と共に漏らしているのだと。
ネウロは目を回したままの弥子を見やる。うつ伏せに、適当に投げられたために半分ソファからずり落ちかけながら、気絶に近いかたちで彼女の意識は落ちたようだった。
眠ればよい。しばしの休息をとればよい。謎の気配が現れれば、今すぐにでも起こされるのだから。
たとえ何もなくても、夜闇が深くなるまでには叩き起こしてやろうと思い、なんて気遣いのできる主人だろうなとあかねにいった。終電がなくなるかどうかのぎりぎりの瀬戸際で起こしてやろう。眠気も吹き飛ぶぞ。あかねは困ったように揺れた。笑ったようにも見えた。




*****
あかねちゃんは全部知っている。
お互い相手が眠ってる間がなんだかとても長く感じるんだよっていう。
 
ネウロは「弥子がいるから」安心して眠るんだってのもあると思う。

弥子が珍しさ=違和感のほうに敏感なのは彼女が変化する生き物だからで、ネウロが既視感や馴染み深さのほうをむしろ感じるのは彼がどこでも王者として君臨するのに慣れた強者だから。でもそれが逆転するときがあるといい。
 
題名は「眠り猫」。眠り猫といえば日光東照宮。眠ったふりでいつでも害する敵に跳びかかれるんだという姿でもあり、背後で雀が舞っていても眠っているほどの平和を現わしてもいるんだという話もあったり。
PR

フラグメント

↑old↓new
〈落忍〉
生い先こもれる窓のうちなるほど(滝夜叉丸と綾部)
かじつ(五年ろ組)
営門を仰ぐ(小松田)
艶書(会計委員会)
俺の指を噛んで(六年は組)
裏打(伊助とは組の誰か)
全てを捧げる朝(きり丸)
今夜の嵐は荒れるだろう(久々知と伊助)
空蝉(金吾と喜三太)
知音(双忍)
寄する波(会計委員会)
故にあなたを捨てられない(図書委員会)
内密(双忍)

〈グレンラガン〉
手折る指先(ロシウとシモン)
順列のともし火を絶やさぬよう(ロシウとヨーコ)

〈ソウルイーター〉
「ひどく憎んでいるかぎり、まだいくらか愛しているのである。」(シュタイン)
「人間よ。汝、微笑と涙との間の振子よ」(ソウル)
「どんな忠告を与えるにしろ、長々と喋るな。」(椿とブラックスター)
秘密という寓話(マカとソウル)

〈SilverSoul〉
葡萄色した東雲に(銀時と土方ととある女)
フォゲット・ミー・ノット(土方と銀時)
Good bye.(神楽と新八)

〈APH〉
夕焼けに薔薇と桜(イギリスと日本)
ドリンクはお好みで(フランスとイギリスとアメリカ)
約束の約束(アメリカと日本)
落葉の手(日本とイタリアと)
寒鴉ひとこえ是と哭けり(プロイセンとロシア)
わたしの緑、わたしのケロイド(イギリスとアメリカ)
藍より出でて(イギリスと日本)

〈fkmt〉 
2番までは知らない(カイジとアカギ)
銀河と君が近かった時代(ひろと赤木さん)
高さのちがう肩に降る(しげるとカイジ)
きしんだ髪と遠くの愛(カイジ)
先生が優秀でしたから(ひろと赤木さん、市川さんとアカギ)
失う前に捨てなさい(カイジとアカギ)
手遅れになったら会いましょう(アカギとカイジ)
ていたらくの作り笑い(しげると涯と零とカイジ)
今はまだ昨日のこと(赤木さん)

〈neuro〉 
アーケオプテリクスの緑(弥子とネウロ)
a solitary example.(弥子とネウロ)
ラワーレ(弥子とネウロ)
いつも五分前(篚口と弥子)
The sleeping Cat.(ネウロと弥子)
n and y(弥子とネウロ)

〈其の他〉
春風の地平(はぐと花本先生)
無何有郷(ベルとキティ)
蓮(曽良と芭蕉)
君は呟く。(中禅寺と榎木津)
ダーリン・フロム・ヘル(笠野と達海)
くたばってしまえ(静雄と臨也)
こどもは隠れるのがうまい(ジャーファルとアラジン)

〈一次創作:掌編〉
薄荷はレモン
香典はセロリ分引いといたから次は蟹で頼む
星に願いを
みかん捨て場には近いし隣室がちょうどいい
語感で会話してるとこうなるっていう一例
十年一日(俺の十年、奴の一日)
コーヒー置いてけ
船出の刻
透明人間は派手で儚いレインボーの夢を見る
モ・クシュラ
蝶々が尋ねる花はこの野にある
秋は剥落

管理人:りつか

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

quod tacui et tacendum putavi.…「わたしが語らなかったこと、そしてわたしが黙っているべきだと思ったこと」。いわぬが花を口にする無粋、を承知で語らずにはおられない気持ちで。

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

 





カレンダー

04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

Copyright © 洛東 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]