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洛東

quod tacui et tacendum putavi.

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n and y

ネウロ。弥子とネウロ。






彼は何事にも“NO”をいう。いえる。常識にだって重力にだって、法的権力にだって、怖い自営業のお兄さんにだっていえる。“いいえ”、そういって軽やかに、押し付けられるものを拒絶する。
自分もそうできたら苦はないのだが、と弥子は英語の問題集を陰鬱に見やる。脳細胞を働かせるためにコンビニで買いこんで来た菓子類は尽きた。今残っているのは飴玉だけだ。それもまた、がりりと最後の欠片が噛み砕かれた。
ああ、と嘆息する。
なんで英語って、質問に対する否定と肯定がちぐはぐなんだろう。

「何かいったか?」

ネウロが振り向いた。声に出ていたらしい。

「あー別になんでも」
「いえ。退屈だ」

逆らうとろくなことがないなと経験と直感でわかったので、自分でもよくわかってはいないことを教科書を見ながらぽつぽつ説明した。

「えーとね…英語の問題でさぁ…あ、あんた英語わかるの?」
「貴様と一緒にするな。文法上のことなら地上に出てきて数時間程度でマスターした。発音は、まぁ今のところ機会がないが、問題ないだろう」
「あっそう…」

そういえば日本語もばっちりなのだ。魔界の言語と彼女の知る言語とはかけ離れているのではないかと想像したのだが、訊くと長くなりそうなので話を戻した。

「あのさ、英語の疑問文ってあるじゃん。彼は犯人ではなかったのですか?とかって。それってさ、日本語だと答えが、はい犯人ではありません、か、いいえ犯人です、になるんだよね。ここまではいい?」
「ふむ」
「でも英語だとさ。Yes,he did.が“いいえ犯人です”で、No,he didn't.が“はい犯人ではありません”になるんだよ。なんでいいえって応えてるのにYESを遣うかなぁ。どうしてもわかんないんだよね」

ふんと殆ど無感動に鼻を鳴らして、青いスーツはこちらに背を向けた。

「簡単なことだ。問いが肯定であろうと否定であろうと、答えが肯定文なら“YES”と答え、否定文なら“NO”と答えているだけだ。初心者が足をとられるグラマー上の単純なひっかけだ」
「答えが肯定か否定か…?あ、そうか。犯人ですって答えるなら文法上、“YES”になるしかないんだ。しまった、日本語を英語に変換しようとしてるから間違えるんだね」
「ふん、ようやくわかったか。貴様にものを教えるのは一足す一は二である、というのをチンパンジーに説くようなものだな」
「ええ…せめて幼児に説くくらいにしてよ…」

しかしこれで一問解決だ。さて次の問題はとページを繰ったとき、何を思い起こしたのかネウロが話しかけてきた。

「この国の人間は特に、物事に対して“はい”と頷く傾向にあるらしいな。従順で、理不尽に耐えうる。耐え凌ぎ、受け流して、許容する。許容して自らが変容することにさえ“YES”…“是”という」
「あー、まぁ一般的にね…」
「確かに物事を進めるうえで便利な傾向だが、我が輩はイエスマンが欲しいのではない。それに、“YES”しかいわない癖に、ある一定のラインを越えると怒り狂い、途端にすべてに“NO”というのは如何なものだろうな」
「あんたにはそのラインがわかんないから尚更ね…」
「貴様らの引いたラインなど知るか」
「あっそう。あんたは何にでも“NO”がいえるもんね。人間にはしがらみってもんがあるの。あんたが“いいや”っていう常識にも重力にも法的権力にだって、“嫌”といったら暮らしてけないの。あ、重力は普通に無理だけど」
「無理ではないぞ。貴様のような地を這うウジムシとて成長すれば立派な蝿になる。人間どもはこの星の外を目指しているではないか。そこには重力はない。貴様らとて、重力に“否”をいえるのだ」
「…“NO”をいうには時と場所を選ばなくちゃいけないってのは変わらないじゃない」
「まぁTPOを弁えるべきなのは否定しない」
「どの口がいうか。…あ、すみませんすみません。何でもないです」

つかつかと窓辺からこちらに歩み寄ったネウロが弥子を真上から覗き込む。振り仰ぐと、髪や髪留めはきらきらと輝いているのに、瞳は底抜けに暗くて明るい。髪留めが弥子の頬を掠めた。

「たまには“イヤ”といってみろ、ヤコ」
「……私が“いや”といったって、それに“NO”をいうのがあんたでしょ」

彼は何事にも“NO”をいえる。
それを羨ましいかと問われたら、答えは“NO”だ。
弥子は概ねのことに“YES”と答える。“はい”と従うのではなく、“是”と受容したいからだ。
ネウロはにやりと笑い、いやよいやよもはいのうち、だろう?といった。またどこからそんな台詞を拾ってくるやら。

「甲斐性なしのろくでなしみたいなこといわないでよ、このひとでなし」
「人ではないが人と名に付く魔人だ。が、ひとでなしとはまた褒め言葉だな」

自称魔界のいい人は今度はにっこりと爽やかな笑顔を浮かべると、どこからか取り出した鞭をぴしりと鳴らした。さぁきりきりと立ち上がれ。宿題なぞ放っておけ。謎が呼んでいる。
愉しげなその様子にも“否”といえない弥子は、嘆息まじりでシャーペンをペンケースに片付けた。




*****
英文についてのあれこれは中学生のときの教科書理解なんで、間違ってたらご指摘ください。

イニシャルが、ネウロはN.Nで弥子ちゃんはY.Kだよねって。
N.N=No.No.(強い否定。或いは否定の二乗による肯定)
Y.K=Yes.Know.(是を知る)
なーんて…
でも普通に考えたら、N.Nはnuronの最初と最後の文字だし、Y.Kって「You know」のほう思い浮かべますよね。そっちでもいい。

否定も肯定もどっちかだけじゃだめで、つまりふたりはプリキュア コンビは最強ってことがいいたかった。

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〈落忍〉
生い先こもれる窓のうちなるほど(滝夜叉丸と綾部)
かじつ(五年ろ組)
営門を仰ぐ(小松田)
艶書(会計委員会)
俺の指を噛んで(六年は組)
裏打(伊助とは組の誰か)
全てを捧げる朝(きり丸)
今夜の嵐は荒れるだろう(久々知と伊助)
空蝉(金吾と喜三太)
知音(双忍)
寄する波(会計委員会)
故にあなたを捨てられない(図書委員会)
内密(双忍)

〈グレンラガン〉
手折る指先(ロシウとシモン)
順列のともし火を絶やさぬよう(ロシウとヨーコ)

〈ソウルイーター〉
「ひどく憎んでいるかぎり、まだいくらか愛しているのである。」(シュタイン)
「人間よ。汝、微笑と涙との間の振子よ」(ソウル)
「どんな忠告を与えるにしろ、長々と喋るな。」(椿とブラックスター)
秘密という寓話(マカとソウル)

〈SilverSoul〉
葡萄色した東雲に(銀時と土方ととある女)
フォゲット・ミー・ノット(土方と銀時)
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寒鴉ひとこえ是と哭けり(プロイセンとロシア)
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銀河と君が近かった時代(ひろと赤木さん)
高さのちがう肩に降る(しげるとカイジ)
きしんだ髪と遠くの愛(カイジ)
先生が優秀でしたから(ひろと赤木さん、市川さんとアカギ)
失う前に捨てなさい(カイジとアカギ)
手遅れになったら会いましょう(アカギとカイジ)
ていたらくの作り笑い(しげると涯と零とカイジ)
今はまだ昨日のこと(赤木さん)

〈neuro〉 
アーケオプテリクスの緑(弥子とネウロ)
a solitary example.(弥子とネウロ)
ラワーレ(弥子とネウロ)
いつも五分前(篚口と弥子)
The sleeping Cat.(ネウロと弥子)
n and y(弥子とネウロ)

〈其の他〉
春風の地平(はぐと花本先生)
無何有郷(ベルとキティ)
蓮(曽良と芭蕉)
君は呟く。(中禅寺と榎木津)
ダーリン・フロム・ヘル(笠野と達海)
くたばってしまえ(静雄と臨也)
こどもは隠れるのがうまい(ジャーファルとアラジン)

〈一次創作:掌編〉
薄荷はレモン
香典はセロリ分引いといたから次は蟹で頼む
星に願いを
みかん捨て場には近いし隣室がちょうどいい
語感で会話してるとこうなるっていう一例
十年一日(俺の十年、奴の一日)
コーヒー置いてけ
船出の刻
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モ・クシュラ
蝶々が尋ねる花はこの野にある
秋は剥落

管理人:りつか

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

quod tacui et tacendum putavi.…「わたしが語らなかったこと、そしてわたしが黙っているべきだと思ったこと」。いわぬが花を口にする無粋、を承知で語らずにはおられない気持ちで。

ぎんたま以外に書いたものを雑多に。 コンセプトは「好きなものを好きなだけ」。

 





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