fkmt作品。越境。
アカギとカイジ。
「失う前に捨てなさい」のアカギ側。
何度か顔を出している雀荘に足を向けると、最近ご無沙汰をしていたせいか、絡んでくる輩がいた。いいカモだ。でもきっちり向かい合っての勝負が望めるような相手ではなかったため、手遊び程度で遣る気が失せてしまった。
しかし、俺がこの雀荘で以前にした所業を憶えているやつがいて、そいつが勝負に一枚かませてくれとやって来た。策があるのだと。もっとも、俺はそいつを憶えていなかったが。
素人だろうが玄人だろうがやくざだろうが、ひとの勝負に乗っかってこようというやつにはそれなりのものを背負ってもらう。金か、指の一本か。
どれがいい?選べ。
怖気づくかなと思ったが、意外にも男は提案を呑んだ。あんたが望むものを賭けよう。金か指かといわれたら、金だ。有り金を渡そう。そいつで賭けてくれ。それで足りないのなら指も賭けるさ。
適当にいなしてさっさと去ろうとしていた俺は、興を引かれて男をみた。さては金がないどんづまりで、ここで引けないというだけか、それとも、その程度には博打に狂っているのか。そのどちらでもなく、そう、もしかして、俺のような向こう見ずを探している、どこかの組の手先か何かか。
そのどれであるのか。俺は男を目を細めて見た。
男は、お前なら勝てると思ったから賭けたんだ、といった。
自分の目を信じて負けるならそれもよいと。
少しばかり小気味良かった。俺は笑い、男にその策とやらを問うた。
結論からいえば、その夜はよく勝った。男の策は悪くはなく、かといってとびきり奇抜というわけでもあく、まぁ、場末の雀荘でこのくらい愉しめれば上々だ、という感じだった。
俺は少し、男がもしや、以前俺がこの雀荘で毟り取った誰かの関係者ではと疑っていた。うまい話を持ちかけて、協力者のふりをして、実はカモとグルになって、雀荘ぐるみで俺のような荒稼ぎをする奴をはめようとしているのかと。
だが杞憂だったらしい。男は俺が今夜は仕舞いだというと、機嫌よく笑い、じゃあ俺の取り分は三だなといった。
欲をかくこともない。六と四くらい、あるいは山分けといわれると思っていた俺は拍子抜けした。
「あんた、なんで麻雀なんてやってんの」
「ん?」
「やってけないでしょ、そんな欲のないことじゃ」
男は頭を掻いた。
「俺は牌に触りたくて来るだけさ。暮らしは、まぁカツカツだが。今夜はそうだな、俺らしくないな。財布には給料全額入ってたからな、お前が負けたらすかんぴん、いや家賃の払いも出来やしなかった。でも、たまにはやりたくなるだろう、そんな向こう見ずな博打を」
「…あんた、見かけによらず、豪胆だね」
「はは、お前は勝つと知っていたから、そんな博打もやったんだ。今日は儲けさせてもらったよ。いい勝負も見れたしな。そうだ、あんた、すごい麻雀を打つなぁ。今日は抑え気味だったろ?前のときは、出禁になるんじゃないかってくらいだったからなぁ…真似は出来ねェけど、おもしろかったよ」
「俺も、暇つぶしにはなったかな。じゃあまた、縁があれば」
別れてから、名前も知らないことに気付いた。雀荘でそういうことはよくある。それにしても、さっぱりとした男だった。
あれだけ俺が勝つということを確信しておいて、次の約束をしない。そのあたりも不思議だった。まだまだ儲けられる、と欲が出そうなものなのに。
さてあの男は、まともすぎるくらいのまともなのか、まともなふりが板に付いただけの狂人か。
結論が出ないまま、俺はその町を後にした。
あれから大分経ち、年号が変わり、世も多少変わった。
俺は相変わらず博打三昧な日々を送っている。
少しの間、何とはなしに身を寄せた、ただの男の家を出ながら、俺は懐かしいその一夜をふと思い出していた。
何故今そんなことを思い出したのだろう。
(ああ。そうか)
煙草に火を点けながら、快晴になるだろう空を見上げて、二度とここには来るまい、と思った。いつかの男と、今出てきた家の男は、どこか似ていたのだ。
(カイジさん)
あの男にも思ったことを、俺はその家の家主にも告げない。
(あんたが落ちて、落ちて、地の底まで堕ちて、地獄の淵の俺と勝負の土俵を同じくすることがもしもあったら。そんときあんたは、今と同じように気軽に勝敗に自分自身を賭けられるかな。欲をかかずに身を引く、じゃなくて、欲を勝利への飢えとして、剥き出しにして勝ちに来るかな。その、死に物狂いになったあんたは、どんな勝負をするのかな)
もし出来るのであれば、俺はそんなあんたと向かい合いたい。
「…なんてな」
この家の主は、日々の暮らしに腐ってはいるが、そこまで身も心も賭けることはない。賭けないならば、別にそれでもいい。そういう人や暮らしを馬鹿にする気はない。
ただ、もしもと思っただけだった。
堕ちきって犬畜生になったあんたが見たいってわけじゃないが。
堕ちてもあんたは、あの雀荘の男のように、一夜限りの相棒を信じられるのかな。命と金を預けられるのかな。自身の魂を賭けられるのかな。
そういう、なんていうのかな。ぎりぎりの瀬戸際で、それでもあんたは清浄な一片を以って、勝負に臨めるのかな。
そこまで考えて、俺は嘆息した。いうなればこれは、未練だ。
勝負への未練。男への未練。この世への未練。どれともつかない。
だから。
「それじゃあ、またね。カイジさん」
もし会うことがあるのならば。
雀荘の男はほんとに一夜限りの男。
黙示録前みたいになった。やたらアカギがカイジを買ってる感じになったけど、黙示録前の(っていうか平時の)カイジに覚醒の片鱗はないよね…
あとこの文脈から行くに、アカギとカイジの再会が帝愛のギャンブルのどっかになりそうでわらた。エスポワールだろうがホテルだろうが、アカギがいたら物語がそこで終了してしまう…笑
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