「
即興小説トレーニング」さんでチャレンジしたもの。
お題:愛すべき土地
リミット:30分
文字数:1360字
「青雲~それは~」
「君がー見たひかりー」
「僕が~み~た~」
「いきなり何」
「ノリ悪いな。そこは続けてくれないと。いや、卒業つったらこの歌だよなーと思って」
「いやいや、仰げば尊しならともかく、それはないわ」
「あれ?そだっけ?」
名前も知らないのに誰もが知っている歌を歌ったハヤシは首を傾げたが、コマドリにいわせればCMでしか聞いたことのない歌だ。大体、コマドリの学校では仰げば尊しも歌わなかった。歌ったのは…何だったか。
「歌わねーかな青雲」
「星雲?」
「そう。青春だろ」
「星雲が青春ねぇ…よくわからないけど、そういうもんかな」
「世代の違いってやつかな。俺にもわかんね」
星雲を見てそれをひかりと感じるだなんて、一体どんな歌だろうとコマドリは思った。何光年も遠いそこまで行けと?行って見て来いと?
流石に遠すぎる。俺は自分で歩いていける地べたでいい。
或いは光年という、時間に置き換えられるほどの距離を、たったひとつのひかりを追い求めて進んで…あるとき初めて振り返ったときに、己がいた場所もひかっていると、それもまた星でありひかりであるのだと、それを知れと?
そこまでしなくても。
「…そこまでしなくても、もう知ってる」
「あ?なに?」
「なんでもない」
ポラリス。アンタレス。ベガ。デネブ。アルデバラン。
よく知っている。遠いどこかで火が燃えている。それがひかっているのだ。
どこかで燃えているそれは誰だ。
「カンパネルラとジョバンニは」
「ん?」
「あの二人はどこまで行ったんだっけな」
「なんだ急に」
「何光年ぐらいの距離なのかなと思って」
「さあ。でも遠いさ。けど、すぐそこっぽいな」
「すぐそこ?」
「そうだろーよ。たとえばあれだ、お前と俺の生まれた街はこっから遠く離れてる。んでもって、ここから見えるあの樹は多分樹齢三十年は経ってる」
「樹齢わかんの」
「いやテキトー」
「おい」
「だがあれだ、数百キロの距離を越えて俺らはここにいるし、あの推定樹齢三十年という樹は俺らの生まれる前からあるのにこうして近づけるし枝に石もぶつけられるほど近い」
「いやぶつけんなよ」
「つまりだな。三十年の時間も数百キロの距離も近づけるし触れられる程度の時間と距離なんだよ。なんてことねぇんだ。俺らは今ここにいるし、あの樹もそこに立ってるし、俺とかお前が踏み出せば三十年も数百キロも一歩か二歩なんだよ。なんてことねぇ」
コマドリは。
横を歩いているハヤシに手を伸ばして。
軽くグーにした拳をぺちりと当てた。
「ホントだ近いや」
「殴るんじゃねーよ人を」
「殴ってない。当てただけ。しかし、星雲も案外近いんだなー」
「青春て近くて遠いからなー」
「ん。卒業おめでとう」
「ああ。そっちもオメデト」
「どこ行くんだっけ、名古屋?」
「おう。そっちは北海道?」
「うん。またそのうち、飯でも食おうか」
「ははっ、いーねぇ。どうせなら中間の東京で飲むか?」
「北海道からなら本州のどこ行くにしても飛行機だから、名古屋でも変わらないけどね」
今も既に遠くなりつつある、これまでの日々という名の火を、ひかりとする。どこかで星が燃えている。
それを懐郷というのだと、名前も知らないのに誰もが知っている。
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そして「僕が見た希望」。
愛すべき土地は遠いところで、今来たところで、これから行くところで、君に会うところ。
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